宿り木カフェ
「渡辺さんの、私不幸なんですって雰囲気、あまり良くないんじゃない?」
数日後、昼休憩も残り時間もわずかなので歯を磨こうとトイレに入ると、鏡を陣取っていたお局に開口一番そんな事を言われた。
私は突然訳の分からない事を言われ、その場に立ちすくむ。
「家族いません、アピール、同情を買いたいのもわかるけど、それじゃ人として成長しないわよ?
きっと天国のお母様達も嘆かれているわ」
彼女の顔は、心底私を哀れんでいた。
私は呆然としたまま、彼女が取り巻きと一緒に私の横を通って立ち去ろうとしているのに、何かを言い返すことも出来なかった。
苦しい。
どくどくどく、と酷い心臓の音が身体中に響き渡り、腹の奥底から何かが沸き上がり、吐きそうになる。
・・・・・・何も、何も知らない癖に!!!!!
私の中の何かが切れた。
必死に、必死に我慢してここに勤めてきた。
姉が、母が亡くなってもしがみついていた正社員というこの仕事に。
でも、もう無理だ。
私はトイレを出ると、もの凄い足音を立てて席に座って隣の同僚としゃべっているお局の側に行き、鬼の形相で見下ろした。
「あなたに何がわかるんですか?
家族を殺されたことでもあるんですか?
血まみれの親の遺体を見たことがあるんですか?
私が墓参りで行けないと言ったら、貴女がしつこく聞いてきたから答えただけでしょう?
つい数日前まで私を苦労知らずだって笑ってて、家族が居ない事を知った途端、私は不幸面してるって何ですか!
一体どんな頭してるんですか、貴女!?
少しでも・・・・・・私の苦しみを味わってみろ!!!!」
泣きながら私は喚いた。
・・・・・・そう、叫びたかった。
そんな風に、あの女に言えたのならどんなに良かっただろう。
必死に今まで我慢していたことが、あんな女のために全てを失うなんて馬鹿な事、してはいけないと、もう一人の私が必死に引き留めた。
なんで私はこんなに苦しまなくてはいけないのだろう。
神様、私は何かそんなに悪いことをしたのでしょうか。
楽しい事なんて、幸せな事なんて私には何も無い。
私は呼吸が苦しくなり、段々息を吸い込めず、意識が朦朧としてきた。
誰か助けを呼ばなければ。
だけれどその意識を保つことも出来ず、そのまま気を失った。