宿り木カフェ
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「つくづく、イチロウ君とうちの子達を会わせて説教して欲しいって思うわ」
震災のことについて子供達に質問したらこんな返答が返ってきたと伝えたら、あはは、と笑い声が返ってきた。
『そんな風に返す方が普通じゃないですか?』
「もう少し想像力ってのは無いのかしら」
『無理ですよ、考えたくないですから』
「考えたくない?」
『そんなわざわざ苦労するようなこと、考えたくないってことです。
既に十分大変な世界にいると思っていますから』
「そうね、だからゲームとかに逃避するのかしら」
『わかりやすく結果が出ますからね』
「どういうこと?」
『現実では必死に勉強しても仕事しても、必ずしも結果が良いとは限らないじゃないですか。
でもゲームはそれだけ時間を費やしたり、課金すればそれに比例して強くなる。
わかりやすく努力の対価を認識できるんです。
遙かに頑張ろうと思えるじゃないですか』
「なるほど・・・・・・。
でもそれってなんか情けないわね、つまらないようにも思えるし」
『そうですねぇ、でも僕もやってますがやっぱり楽しいですから。
あまり取り上げるというのはやめておいた方が良いと思います』
「それはニュースの特集とか本で見て、取り上げることは止めてるんだけど、病的にのめり込むんじゃないかと心配にはなるわ」
『まだ外に出てるから大丈夫ですよ』
「そうかしら・・・・・・」
この子は震災という事があったからこそ、今の彼になっている。
でも、多くの子達はそうではない。
私にはどうしたらいいのか答えが出なかった。
「こんな事聞いて申し訳無いんだけど、被災した時のお友達はどうなったの?」
『あぁ、そうですね、自宅に戻ったメンバーの一部は死にました。
残ったメンバーは今はバラバラですが、これがびっくりするほどまともな職業に就いたメンバーが多くて』
「そうなの」
死にました、と友人にはさらっと使うのに、家族には亡くなったという言葉を使う彼に、本当に家族の存在が大きいことを実感する。
『被災した時、自衛隊や消防団の人や、多くのボランティアに救われました。
短絡的かも知れないですけど、特に自衛隊の人達を見て、純粋に僕たちにはヒーローに見えたんですよ。
あんな状況でしたし』
「ニュースでも、被災した経験からそういう道を選んだ人が結構居るなんて見たわ」
『そうですね、実際そういう方向に進んだメンバーもかなり居ます。
でも想像以上にハードで、一時は辞めたい逃げたいって始終言ってましたし、結局辞めたヤツだっています』
「でしょうね」
『でもそんな話は美談になりやすいから取り上げられるのであって、実際多くの人達は普通ですよ。
それに被災してる時の事を美談でその後出ていたりしますけど、実際は酷かったところもありましたし、綺麗な話ばかりじゃないんですけどね』
「そうね、私達は本当に一部しか知らないのでしょうね・・・・・・。
イチロウ君が医者を目指したのもやはり震災のせい?」
『直接の理由では無いと思うのですが、僕は家族を失って、田舎の祖父母に引き取られたんです』
「あぁ、そうだったのね」
ずっと一人ではなかった事に私は心から安堵した。
もちろんそれでも辛くて苦しいことには違いないのだろうけれど。
『その場所がいわゆる過疎化モデル地区みたいな場所でして。
昔からの診療所しか無かったんですが、そこの先生も高齢で診療所を閉じてしまって。
それでみな、大きな街まで車で1時間以上かけて行くんですよ。
それを見ていて、こういうところこそ医者が必要なのだと思ったんです』
私はそれを聞いて、正直私はその理由から医者になることに賛成できなかった。
少しの間とはいえ、ずっと昔とはいえ一時は看護師として働き、医師のハードさは目の前で見てきた。
地方のクリニックでパートもしてみて、その土地土地や病院により、患者との向き合い方も違う事を知れた。
辞めてからも、やはり医師や看護師に関わるニュースは気になってしまう。
過疎化での医師の問題は急務だが、簡単にだからそこにいけば良いという問題でもないと私は思っていた。