姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 私はもう二十四歳で、彼の妻になったのだから呼び捨てにしてほしい。本当は結婚が決まった半年前からそう願っていたのだ。

「百花」

 初めて耳にする甘い響きに、心臓がものすごい音を立てた。

 望み通りの呼び方は、想像していた以上に破壊力がある。

「……はい」

「百花、こっちを向いて?」

 そう促す声もとびきり甘かった。

 顔を向けたらどうなってしまうのだろう。不安と期待が入り交じる。

 髪を優しく撫でられたとき、自分からぎゅっと抱きついた。

「雅貴さん……」

 私の覚悟が伝わったのか、彼は私をそっとシーツの上に横たえた。

 よかった、その気になってもらえたのだと安堵したのも束の間、彼は私に覆い被さりながらも、どこかためらっていた。もしかして、まだセックスするかしないか逡巡しているのではないだろうか。

「あのっ、私、初めてじゃないので大丈夫です」

「え?」

 雅貴さんは虚を衝かれたような表情になった。

 どうやら的外れなことを口走ってしまったみたいだ。しかし後悔しても遅い。

 世の中には処女はめんどくさいと言う男性もいるようなので、実はキスすら経験がないのだけは絶対に隠し通さなければ。

 今日の結婚式でおでこにしてもらったのが初めてのキスだと知ったら、彼をさらにしらけさせてしまうかもしれない。

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