姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 とはいえ、今日みたいに雅貴さんが帰ってこない日はいろいろと考えてしまう。実家にいる頃は常に祖父と母がいて、ひとりになる時間がほとんどなかったからかもしれない。

 祖母は三十代という若さでこの世を去ったので、私は会ったことがなかった。美人薄命という言葉通りの大層きれいな人だったそうだ。

 祖父いわく、祖母に憧れていた男性は数えきれないほどいたという。祖父もそのうちのひとりで、結婚できたのはただただ運がよかったのだと、繰り返し聞いた。それくらい、祖父は祖母に心を惹かれていたみたいだ。

 お昼過ぎ、家事の続きをしていると、姉からスマートフォンにメッセージが届いた。

【京都の老舗和菓子店のお菓子をもらったから、仕事終わりに持っていくね。都合のいい時間を教えて】

 思わず頬が緩んだ。わざわざお菓子を持ってきてくれるなんて、姉と雅貴さんは似ているところがある。雅貴さんも昔、姉に会いに来るついでに、私にいろんなお菓子をくれたのだ。

【ありがとう。今夜は雅貴さんが当直でいないから、いつでも大丈夫だよ】

 すぐに返信をした。

【じゃあ外で待ち合わせして、ついでに晩ごはんでも食べようよ】

【いいね! そうしよう】

姉の仕事は午後六時までなので、六時半頃に中間地点の駅前で待ち合わせることになった。姉とふたりきりで食事に行くのは意外とめずらしい。お互いに結婚するまでは実家暮らしをしていたからだろう。

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