姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 患者家族用の控え室には、私と雅貴さんだけになる。

「百花は大丈夫か? いきなり禎人さんがこんなことになってショックだっただろう」

「アドレナリンが出ているのか、なんだか興奮状態で……。まだあまり実感できていないのかもしれません。くも膜下出血は壮年期の人がかかる病気だと思っていました」

「好発年齢は五、六十代だが、三十代でも発症する病気だ。すぐに救急車を呼んだ判断は正しかった」

「普通の頭痛には思えなかったんです。レストランの人も親切に対応してくれて本当によかったです」

 後日改めてお礼に行こう。ほかのお客さんたちもみんな心配してくれたり、親身になってくれたりした。

 雅貴さんと話していたら、出し抜けに控え室のドアが開く。

「久宝先生っ」

 医療事務員の制服姿の瑠奈さんが、雅貴さんに一直線に向かってきた。

喜多村(きたむら)さん?」

 喜多村さんとは、瑠奈さんの苗字だ。

「レセプト業務で残業していたら、久宝先生のお義兄さまが救急搬送されたと聞いて……」

 瑠奈さんはまだ仕事をしていて院内にいたみたいだ。

「無事に手術が終わったところだよ」

 雅貴さんは淡々と答えた。

「そうなんですね……」

 瑠奈さんは禎人さんの病状を案じているようだ。

 先日の一件があるから、私は身構えてしまう。

 
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