姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
「あら? 百花さん? どうしてここに?」

 瑠奈さんは私に気づき、首をかしげた。

「ちょうどお義兄さんと一緒にいたので、救急車に同乗したんです」

 答えると、瑠奈さんは芝居がかったような大げさな態度で、驚いた表情をする。

「えっ! もしかして、お義兄さまとふたりきりだったんですか?」

「そうですが……」

「ありえない……。久宝先生が当直の夜に、姉の夫と……」

 瑠奈さんは私に軽蔑の眼差しを向けた。

 まるで私と禎人さんが浮気をしていたかのような言い方だ。

「もともとは姉と食事をする予定だったんです。でも姉が残業になったので、禎人さんが代わりに来てくれたんです」

 すぐに反論した。私と不倫を疑われるなんて、さすがに禎人さんに失礼だ。

「やっぱり百花さんって姉のものが好きなんですね」

「なっ……」

「久宝先生はなんとも思わないのですか?」

 瑠奈さんはすかさず雅貴さんに水を向けた。

 しかも彼が答える前に、意気揚々と満面の笑みを浮かべる。

「あっ、そっか! 愛のない結婚だから、百花さんが誰となにをしようが無関心なのですね」

 私はわなわな震えた。どうして瑠奈さんにここまで嘲られなければいけないのだろう。彼女は悪意がありすぎる。

< 60 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop