姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
「無関心じゃない。百花を信用しているんだ」

 雅貴さんはかけらも瑠奈さんに惑わされず、当然のように断言した。

「久宝先生、冗談でしょ……?」

「百花、喜多村さんの話は気にしなくていいからね」

 頭を撫でられ、優しい微笑みを向けられた。それだけで心の底から安堵する。

「雅貴さん……ありがとうございます」

 彼に相手にされなかった瑠奈さんは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「失礼しますっ」

 瑠奈さんは私を睨みつけ、大股で去っていった。なんだか報復が怖かった。

 
 二週間後。禎人さんは最も危険な期間を乗り越え、状態が安定した。

 三十代半ばと年齢が若く、すぐに手術を受けられたのも大きかったという。

 リハビリも順調に進み、一カ月半が過ぎた頃には元通りの社会復帰も見通せた。姉もやっと一安心できたようだ。来週には退院できるみたいで、夫婦で快気祝いのパーティーをするのだと姉が張り切っている。私は姉と禎人さんから何度もお礼を言われた。重症化しなくて本当によかった。

 今回のことでいつ誰がどうなるかなんて本当にわからないと骨身に染みた。日々命に向き合っている雅貴さんを尊敬する。私はせめて毎日精いっぱい、後悔しないように生きようと思う。


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