姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
「体調はいかがですか?」

 雅貴さんはおじいさまの向かいに腰を下ろしながら問いかけた。

「問題ないよ」

「無理せず静養してくださいね」

 祖父と孫の会話なのに、なんだか医師による問診みたいだ。

 私が雅貴さんの隣に座ると、お手伝いさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。

「そういえば、おじいさまは雅貴さんと同じ脳神経外科医だったのですよね」

 たしか雅貴さんは祖父の跡を継いだのだと言っていた。

「ああ。六十歳まで第一線でメスを握っていたよ。その後は内科に転科し、七十五歳まで現役で働いていたんだ」

「そうなのですね」

「外科医の寿命は短い。八十歳になっても執刀する医師もいるが、体力があって目もよく、手先が器用な若い医師に任せるべきだろう」

 医師ひとりひとりにいろいろな選択や思いがあるのだろうけれど、患者側の私としてはおじいさまの意見に賛成だ。

「最近は遠隔手術の研究が加速しているし、外科医を引退したあとは、実際にメスを握る医師に指示を出す指導医として活躍できる場が広がるだろうな」

 おじいさまは近い将来の展望を語った。私は興味深く耳を傾ける。

 雅貴さんが手術している現場を見てから、もっと脳神経外科医について知りたいと思っていたのだ。雅貴さんはあまり仕事の話をしないので、絶好の機会だ。

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