姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 ほかにも雅貴さんの子どもの頃の話や、私が知らない一面をたくさん聞かせてくれた。

「雅貴は小学校低学年くらいまでは相当わんぱくでね、学校から帰ってくるたびにどこか怪我をしていて、母親を心配させていたんだ」

「えっ、雅貴さんが?」

「ああ。真冬に川に飛び込んだこともあったな」

「それは捨てられていた子猫を助けるためです」

 雅貴さんがすかさず言い添えた。

「そうだった。その後、子猫は我が家に迎えたんだよ」

 かわいい三毛猫で、おじいさまとおばあさまにかわいがられ十七年生きたという。なんとも心が温かくなる話だ。

 それにしても雅貴さんは相当活発な男の子だったみたいだ。今の姿からは想像すらつかなかった。

 でもその頃から命を大切にする優しい性格をしていたのが伝わり、うれしくなる。

「すみません。病院から電話です」

 不意に雅貴さんのスマートフォンが鳴り、彼がリビングを出て行く。なにか緊急の事態があったのだろうか。

 室内は私とおじいさまのふたりきりになる。

 時計を見やると、いつの間にか一時間半が過ぎていた。

「長居してしまいすみません」

 おじいさまの体に負担がかからないよう、早めにおいとまするつもりでいたのに、つい会話に夢中になってしまったのだ。

 おじいさまはゆっくりとかぶりを振る。

< 64 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop