姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 どうして雅貴さんのおじいさまと両想いの私の祖母が、私の祖父と結婚したのだろうか。経緯がわからず困惑した。

「千代子さんは本当にきれいな人だったよ」

 そう祖父からも繰り返し聞いていた。祖母に憧れていた男性は数えきれないほどいたと。祖父もそのうちのひとりで、結婚できたのはただただ運がよかったのだと。

「その時代は恋心では結婚相手を選べなかった。そして華族制度が私と千代子さんの仲を引き裂いたんだ」

「華族制度……」

「私は平民、千代子さんは華族だったからね」

 とくに身分違いの結婚は認められなかったという。
 
 そうして祖母は、同じく華族であり、家柄の釣り合う祖父と結婚したそうだ。

「だが、そのわずか一カ月後に、華族制度は廃止された」

 衝撃の事実に、私は愕然とする。

 まさかそんな過去があったなんて。

 祖父が祖母と結婚できたのを『運がよかった』のだと言っていた意味が腑に落ちた。

 そして今や、三上家は形骸化した名ばかりの一般家庭となり、久宝家は都内随一の大病院となったのだ。完全に立場が逆転しているなんて、なんという数奇な人生なのだろう。

「その後、私も親同士が決めた結婚をしたよ。しかし数年が経った頃、いきなり私のもとに百花さんの祖父――(いさむ)さんが訪ねてきてね。勇さんは千代子さんから私の存在を聞いたそうだ。勇さんは千代子さんを愛していたから、彼女をかわいそうに思ったのだろう。いずれ私と千代子さんも縁を結べるように、互いの子どもが生まれたら許嫁にしようと申し出てくれたんだ」

 
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