姉の許婚に嫁入りします～エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ～

「雅貴さん、病院のほうはどうでしたか？」

「ああ、大丈夫だ。電話対応で済んだよ」

　どうやら出勤はしなくてよさそうでほっとする。
　
　少しだけ三人で話し、そろそろおいとますることになった。

「雅貴、百花さんを大事にしなさい」

　帰り際、おじいさまが彼にそう言い残す。

「もちろんです」

　雅貴さんはまっすぐにおじいさまの目を見て返事をした。その真摯な姿が私の脳裏に鮮やかに焼きつく。

　お見送りは固辞し、おじいさまと玄関先で別れた。

　敷地内に停めている車に乗り込んだとき、運転席から長い腕が伸びてくる。

「ま、雅貴さん？　どうしました？」

　いきなり抱きしめられてうろたえた。車内とはいえ、まだおじいさまの家なのだ。

「さっき百花とおじいさまの会話が聞こえた」

「……えっ」

　いったいどこから聞かれていたのだろう。記憶をたどり、顔がどんどん熱くなった。

　雅貴さんの腕に力がこもる。

「俺も百花と結婚できて幸せだよ」

「雅貴さん……」

　彼の言葉が胸に深く染み入った。少しずつでも私を愛してくれているのだと実感する。

　一緒に過ごす時間を重ね、私たちはたしかに夫婦に、家族になっていっているのだ。

　至近距離で見つめ合い、彼が唇を触れ合わせてきた。何度も何度もキスをする。

　本当に幸せで、すべての過去に感謝したくなった。