姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 彼に宥められた姉は、荷物を掴んだまま立ち尽くす。しばらく押し黙ったあと、「……そうだね」とつぶやいた。少し正気を取り戻したようだ。どうやら姉は私だけを拒絶しているみたいだ。

 姉に距離を置かれるようなことはしていないはずなのに、わけがわからなかった。瑠奈さんが関係しているのだろうか。

 その夜はなんとか雅貴さんのおかげで、姉はレジデンスにとどまってくれた。

 次の日は、姉も雅貴さんも仕事が休みだったけれど、姉は昼を過ぎても一向にゲストルームから出てこない。

「やっぱり姉は私を避けているみたいです」

 私は雅貴さんに、自分が感じている違和感を伝えた。

「百花を?」

 雅貴さんは目を瞬かせる。

「はい。理由はわかりませんが……」

 憶測でものを言うのはよくないので、瑠奈さんを疑っているのは胸に仕舞っておく。

「とにかく私がいたら姉はゲストルームから出てこないと思うので、食材のお買い物にでも行ってきますね」

 私は立ち上がり、外出の準備を始めた。

「わかった。あとは俺に任せて」

 私が姉を問い質すより、雅貴さんに託すのが賢明だろう。きっと彼がすぐに原因を特定してくれる。

 少し遠くのスーパーマーケットまで足を運んだ。いつものお店にはないものが並んでいたり、新鮮なフルーツが揃っていたりする。でも姉の様子が気になって購買意欲が湧かなかった。

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