姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 二周したところで諦め、少しだけ買い物してスーパーマーケットをあとにする。すぐに帰るのも憚られたので、そばにあったコーヒーショップでアイスのカフェ・モカを注文し、ゆっくり飲んだ。雅貴さんは無事に姉と話ができただろうか。

 夕方になり、ようやく帰宅した。物音を立てずにそうっと玄関を開け、中に入る。

 足音を忍ばせてリビングに向かったら、雅貴さんと姉の気配がした。まだ話し合いの途中みたいだ。

 私はもう少し外にいたほうがいいかもしれない。

 踵を返そうとしたとき、とっさに足を止めた。

 観葉植物の陰になっていてわかりにくいけれど、雅貴さんと姉が抱き合っているように見えたのだ。

 彼の背中に、姉の腕が回されている。

「ずっと好きだったんだ」

 狂おしげな雅貴さんの声が聞こえ、耳を疑った。

 『ずっと好きだったんだ』――たしかに雅貴さんはそう姉に告白していた。一瞬、頭の中が真っ白になる。そのあともなにか話しているようだったけれど、声がすり抜けていき入ってこない。

 雅貴さんは今もなお姉を愛していたのだ。それをまざまざと思い知らされた。

 私はふたりに気づかれないように、息をひそめてレジデンスを出る。

 姉と禎人さんが離婚危機の今、雅貴さんが姉に想いを伝えた意味を考えた。

 答えはひとつだろう。雅貴さんは姉を手に入れたいのだ。

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