姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
「凛花さんが百花を避けていたのは心配しなくていいよ。昨夜は飲みすぎて正常な判断ができなかっただけのようだ」

 昨夜姉になにがあったのかは、具体的には教えてくれなかった。でも今となってはもうその件について追及する余裕がない。

「そうですか……」

「ああ。後日、百花とゆっくり話したいと言っていたよ」

「……私、雅貴さんにお願いがあります」

 彼の話を遮って切り出したのに、優しく手を引いてソファに座らせてくれた。すぐ隣に彼も腰を下ろし、顔を覗き込んでくる。まるで慈しむような表情に胸が締めつけられた。彼が好きすぎて、弱い私には迷いが生じる。それを振り切るようにかぶりを振った。
 
「お願い?」
 
「雅貴さん……私たち離婚しましょう」

 消え入りそうな声で申し出た。

「いきなりどうしたんだ?」

 彼は目を見開き、唖然としたような表情になる。
 
 いきなりだけれど、衝動的じゃない。きちんと考えて判断した上での行動だ。

「私たちの結婚は、やっぱり無理があったんです。おじいさまのためとはいえ、好きじゃないのに結婚するなんて……」

「俺と一緒にいるのが嫌になった?」

「……はい。耐えられなくなりました」

 雅貴さんの一番になれないのがつらいから。

 今日、彼と姉の会話を聞いたことは胸に秘めておく。

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