姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 いつまでもこのままではいられないと焦りを感じた頃、レジデンスの近くで瑠奈さんに会った。

「瑠奈さん……?」

 瑠奈さんは軽い足取りで近づいてくる。

「百花さん。ちょうどおうちに伺おうとしていたのよ」

「……雅貴さんはまだ帰宅していませんが」

 反射的に警戒心を感じ、私は後ずさった。

「知ってるわ。さっき病院で見かけたもの」

 時刻は午後六時半。瑠奈さんは仕事帰りのようだ。

「じゃあ、なにをしに……」

「あなたに用があって来たのよ」

 とにかく家には入ってほしくなくて、レジデンスのエントランスロビーにある住民専用のソファに向かった。ここなら近くにコンシェルジュもいるし安心だろう。

「どんなご用ですか?」

「先日、凛花さんとお酒を飲みに行ったの。凛花さんって本当に美人で明るくて気前がよくて、素敵な女性ね」

 いったいなんなのか、瑠奈さんは姉を褒めそやした。

 眉をひそめたら、彼女はすぐに嘲りを含んだような笑みを浮かべる。

「まあ、ちょっぴりおばかさんみたいだけど」

「なっ……」

 いきなり姉を侮辱され、頭がかっとなった。
 
「だって、禎人さんに離婚したいと言われるって相談されたから、『禎人さんの好きな人って百花さんでは? 百花さん、禎人さんに思わせぶりな態度を取っていましたよ。それでなびいちゃったのかも』って吹き込んでみたら、まんまと信じたんだもの」

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