姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 私は唖然として、二の句が継げなかった。

 あの日姉の様子がおかしかったのは、やっぱり瑠奈さんのせいだったのだ。まさか姉に荒唐無稽な嘘を吹き込んでいたとは。

「私がいつ禎人さんに思わせぶりな態度を取ったんですか?」

「さあ? お姉さんのものをほしがるあなたならやりかねないでしょ? 現に雅貴さんを横取りした前例もあるし」

 瑠奈さんは私を言い負かし、悦に入ったような表情を浮かべた。

「……もうなんとでも好きに言ってください」

 今さら彼女にわかってもらう気はなかった。私を忌み嫌う彼女には、どれだけ異を唱えても無駄だし、雅貴さんと離婚すればかかわりはなくなるのだ。これ以上精神的に消耗したくない。

 会話を断ち切り、ソファから立ち上がる。

 その場を離れようとしたら、瑠奈さんがものすごい力で腕を引っ張ってきた。

「待ちなさいよ。まだ用は済んでいないわ」

「もう話すことはありません」

 失うものがなくなった私は強気だ。

「雅貴さんと離婚して!」

 エントランスロビーで声を荒らげられた。言われなくても近いうちにそうなるのに、彼女は躍起になっている。

「雅貴さんを私に渡しなさいよ!」

 勢いよく突き飛ばされ、私はそばにあった調度品に右肩をぶつけた。それでも瑠奈さんが再び掴みかかってきて、狂気に満ちた目で睨みつけてくる。

「あなたがうなずくまでやめないわ」

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