愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
真面目なだけが取り柄の自分。
 
なにも持たないただの自分。
 
たった一度の失恋で、深く傷つき恋も結婚もしないと決めていた弱い自分。
 
その自分が彼の隣に立つことに、自信が持てないだけなのかもしれない。
 
立場が違うと言い訳をして、逃げているだけで……。

「有紗……」
 
わずかに離れた彼の唇に名を呼ばれて、有紗はゆっくりと目を開く。
 
大好きな目が、愛おしげに自分を映していた。
 
彼の愛を信じられないわけではない。
 
ただ……。

「有紗、愛してるよ」
 
愛の言葉を口にする彼の唇が、またゆっくりと近づいて……。
 
——ピリリリリ。
 
鳴り響いた携帯の音に、ぴたりと止まった。
 
そのままふたり見つめ合う。
 
部屋に鳴り響く電子音に、有紗の頭が少し冷えた。

「お仕事の電話かも……」
 
龍之介の胸をそっと押す。
 
彼は小さく息を吐いて、有紗を包む腕を緩めた。そして大きな手で、有紗の頭をポンポンと優しく叩く。

「……おやすみ」
 
微笑んで、彼はリビングを出ていった。
 
静かに閉まるドアを見つめて有紗は甘い息を吐く。
 
身体の火照りはいつまでも収まりそうになかった。
 
——彼は住む世界が違う人。私とは生まれも立場も釣り合わない。
 
そう自分に言い聞かせるけれど、どこか虚しく心に響いた。
 
それが正解だと思っていたけれど……。
 
二年ぶりの彼とのキスが、有紗の中のなにかを変えようとしていた。
< 136 / 178 >

この作品をシェア

pagetop