愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

父からの警告

* * *

寝室へ戻りドアを閉めて龍之介は深い息を吐いた。
 
——危なかった。
 
もしあそこで携帯が鳴らなかったら、まだ明確な言葉を聞いていないうちに、彼女を抱いてしまっていた。

強引にでも、自分のものにしてしまっていただろう。
 
龍之介はベッドに腰を下ろし、心と身体を鎮めようとする。

二年ぶりの彼女の唇の感覚に、高ぶる気持ちを落ち着かせる。
 
彼女に深く入り込むたび、彼女が漏らす甘い声が、あの夜の出来事を鮮明に浮かびあがらせた。
 
潤んだ瞳と、答えを言わない濡れた唇が自分を狂おしい愛に駆り立てる。

抑えるべきだとわかっていても、口づけずにはいられなかった。
 
あの夜とまったく同じ衝動が自分を突き動かしたのだ。
 
どうしても彼女がほしい。
 
熱く愛し合ったあの夜に連れ去って、他のことはなにも考えられないくらいに愛したい。
 
ふーっと長い息を吐いて、髪をぐしゃぐしゃとした。
 
彼女はいつも、龍之介の中のはじめての感情を刺激する。

こんなに心乱されるのは後にも先にも彼女だけ。
 
運命の女性だと言ったら、彼女は笑うだろうか。
 
一方で、自分を見つめる潤んだ瞳と、背中に回された細い腕に、有紗の気持ちが戻りつつあるのを感じていた。
 
おそらくまだ、踏ん切りがつかないのだろう。突然変わった環境と、子供たちを守らねばならないという責任。
 
あるいは、龍之介の気持ちを信じきれないのかもしれない。
 
——いつまでも待つ、と龍之介は決意する。たとえその瞬間が人生を終える間際でも、彼女の気持ちを待ち続ける。
 
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