愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
とはいえ、ここは会社で自分は勤務中、彼がそう言うならばそうするしかない。
 
もちろん嫌だというわけじゃない。包みを開けてすぐに漂う芳醇な甘い香りに有紗の胸は高鳴った。
 
どうぞ、というように箱を差し出しにっこり笑う龍之介をチラリと見てから、ゆっくりと手を伸ばす。

宝石のようなチョコレートをひとつ摘む。
 
口に入れた途端に高貴な甘さが口いっぱいに広がる。

有紗にとっては特別な味だった。二年前、彼への想いをときめかせて食べた味。
 
龍之介が目を細めた。

「君ほどチョコレートを幸せそうにそうに食べる人はいないんじゃないか。甘いものが好きではない俺でも食べてみたくなる」
 
そう言って彼は手にしていた箱を机に置いて、有紗を腕の中に包み込む。突然の彼の行動に有紗は目を見開いた。
 
二年ぶりにキスをしたあの日以来、ふたりの距離は少し近づいた。

彼は時々、有紗を抱き寄せ、あの日のようにキスをする。

ダメだダメだと思いながら有紗もそれに夢中になってしまうのだ。
 
とはいえ、あくまでもそれは家でのこと。
 
勤務中に会社で、この距離はあり得ない。けれどクレームを言おうにもチョコレートが口の中にある状況では、無理だった。
 
目を白黒させる有紗を楽しげに見下ろして、彼は不可解な言葉を口にする。

「味見させてもらってもいい?」
 
大きな手がうなじに差し込まれる感触に有紗は身体を震わせる。

わずかに開いた唇を龍之介が塞いだ。

「んっ……!」
 
彼の胸元のシャツを握り締めて、有紗は身体をしならせる。

それを危なげなく抱いたまま、彼は有紗の中のチョコレートを余すことなく舐め取ってゆく。

「なるほど、確かにこれは美味しいな。癖になりそうだ。君が夢中になるのも納得だ。ほら、もうひとつ」
 
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