愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

退職勧告

* * *

 
有紗が去った後の副社長室で、龍之介はチョコレートの包みを見ている。

真っ赤に染まった彼女の頬を思い出し柔らかな気持ちに満たされた。
 
あと少し、もう少しで彼女の心が決まると感じている。

急かすつもりはないと言ったが、早く確かなものにしたいのも本心だ。
 
彼女が自分との未来に躊躇するのは当然だ。
 
やっかいごとに巻き込まれにいくようなものなのだから。

それでももう身を引くつもりは一切ない。
 
彼女の心さえ手に入れば全身全霊をかけて守り抜く。つらい思いは絶対にさせない。
 
そのために、ひとつずつ障害を取り除き環境を整える必要がある。机の上でトントンと人差し指を叩いて龍之介が考えていると。
 
コンコンとドアがノックされ詩織が姿を現した。

「副社長、お話があるのですが、よろしいですか?」

「ああ……少しなら」
 
答えると、どうぞとも言っていないのに、
応接コーナーのソファに座る。龍之介は心の中でため息をついた。
 
正直なところ休憩中に彼女の話を聞くのは煩わしい。

一応彼女も秘書ではあるが十中八九、仕事に関する話ではないからだ。
 
だがちょうどいいとも思う。
 
そろそろ、社会勉強とやらを終わらせる話をしよう。

マスコミに狙われている今、信用できない人物はできるだけ秘書課にいない方がいい。
 
龍之介が向いに腰を下ろすと彼女はにっこりと笑った。

「今度、家で親しい方々をお招きしてホームパーティを開くんです。で、父が龍之介さんもお呼びしたらって言っていて。来月なんですがいかがですか?」
 
案の定、仕事とはまったく関係のない話だと、内心でため息をつく。

だが彼女の父は取引先の社長でもある。一応は丁寧に断りを入れる。

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