愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
第6章 この街で生きていく

スクープ記事

有紗のプロポーズ受けた龍之介の行動は早かった。

その日のうちに有紗と子供たちを連れて、有紗の故郷へと飛んだのだ。
 
古い定食屋に併設された有紗の実家で。まず彼は、畳に頭をつけて有紗の父に子供たちのことを詫びた。

『僕のいたらなさが、彼女と子供たちに苦労させることになりました。これからは必ず幸せにすると約束します。どうか娘さんと結婚させてください』
 
挨拶をするとは聞いていたが、そこまでするとは思わなかった有紗は慌てたが、父は涙を流して頷いた。

『よかったな、有紗』
 
父が泣くのは母が亡くなって以来だ。
 
お前のことは信頼していると言って出産についてはなにも言わなかった父だが、やはり心配していたのだ。
 
その父を見て、有紗も一緒に泣いた。
 
そうして有紗側の了解を得てから、今度は自分の父親、天瀬一郎への報告をするという。
 
もう迷わないと決めたとはいえ、やはり心配だった。
 
彼の父親はすなわち天瀬商事の社長であり、名門天瀬家の家長だ。

一般人の有紗との結婚で、しかもすでに子がいる状況で、はいわかったというわけにいかないだろう。
 
副社長秘書である有紗は当然、社長と面識がある。でもあまりかかわらないし、普段の姿はよくわからなかった。

『大丈夫だ。俺が結婚するというだけで小躍りして喜ぶよ』
 
龍之介はこともなげにそう言ったけれど……。
 
一郎は長期の海外出張中だったから、帰国したその日に報告するためのアポを取り付けた。

世間に向けてのリリースを行うかどうかは、とりあえず保留となった。
 
拍子抜けするほど、なにもかもが順調に進んでいるように思えたが、そうはいかなかった。事件は彼の父親への報告の前日に起きた。
 
週刊誌から秘書室に、二日後に載る電子版の紙面が通達されたのだ。

『"東洋の黒騎士"こと天瀬商事の副社長、婚約破棄の真相。秘書と乱れた関係か⁉︎』という見出しの記事の内容は。
 
JEDグループの創業者一族である渡辺家の令嬢と龍之介の縁談が、籍を入れる直前に破棄された。

原因は龍之介の浮気。第一秘書が実は愛人だったということが発覚したからだとある。

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