愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

遊歩道

気を抜くと、ひょっこりと顔を出しそうになる彼への気持ちに蓋をして有紗は仕事に打ち込んだ。
 
——この気持ちはただの錯覚。素敵な男性と一緒にいる人なら誰もが感じるドキドキで、特別なものじゃない。そのうちに消えてなくなる。
 
けれどそうではないと有紗が思い知ったのは、それからさらに数カ月が過ぎた初夏のある夜のことだった。
 
ベリが丘の街が青々とした緑に包まれていたその日、有紗は会社帰りに同期会に参加した。
 
開催場所は、サウスエリアにある海が見えるイタリアンレストラン。人数がやや多くなったので、立食形式の貸切だった。
 
年に二回開かれる非公式の集まりに、普段はあまり参加しない有紗が、その日参加することにしたのは、ある同期にメールで熱心に誘われたからだ。
 
彼女とはさほど親しい間柄ではなかったけれど『いつか海外事業部で働きたいから、話を聞きたい』と言われては無下にできない。
 
少し遅れて到着した有紗を待ち構えていたように彼女を含む三人の女性社員に取り囲まれる。
 
挨拶もそこそこに、質問責めがはじまった。しかし内容は、メールで聞いていたのとはまったく違っていた。

「ねえ、真山さんって秘書室に異動になったんだよね? しかも副社長の担当! どうやって勝ち取ったの? 例のランチミーティングでアピールしたって本当?」

「副社長って普段はどんな感じなの?」

「第一秘書ならプライベートの予定も把握できるんだよね。副社長のことなにかおしえてよ。私先輩から頼まれちゃって。趣味とか。休日はどこに出没するとか!」
 
そこで有紗はようやく彼女の目的を悟る。龍之介の情報を有紗から引き出そうとしているのだ。
 
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