愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
有紗が首を傾げると、首を横に振った。

「いや、気にしないでくれ」
 
そして気を取り直したように、やや気軽な調子で口を開いた。

「最後に私のわがままを聞いてくれないか?」

「わがまま……ですか?」

「ああ。今までの君の働きを労いたい。送別会をさせてくれ」

「送別会なら、秘書室で計画してくださっています。副社長も参加していただけるなら、スケジュールを……」

「いや。できれば私と君だけで食事をしたいんだ。退職日の夜にでもスケジュールを開けてくれ。精一杯、お礼をしたい」

「かしこまりました。……ありがとうございます」
 
ふたりだけで食事を取る。
 
そこに部下に対する労い以上の意味はない。

それでもその日だけは、彼とふたりだけでいられる。最初で最後の機会だ。
 
そのことに有紗の胸は高鳴った。
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