愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
これから先の人生がどうなるかはわからない。
 
病気の父を支えて一からやり直すのは楽な道ではないだろう。

それでもここで過ごした日々を胸に抱き、彼がくれた言葉を道しるべに進んで行こう。
 
有紗はそう決意する。
 
——この恋は無駄じゃなかった。
 
心の中で呟いて、テラスの手すりをギュッと握った。

「私、天瀬商事で働けてよかったです。……ふ、副社長のもとで働けて……」
 
声が少し震えてしまう。
 
胸の鼓動がまたドキドキと大きな音を立てる胸の鼓動を立てている。
 
決意したつもりでも、いざその時がきたら、怖くて足が震えた。
 
本当はもう少し、心を落ち着ける時間がほしい。

けれど、忙しい彼の時間をこれ以上割いてもらうわけにはいかない。伝えたいと思うなら、今言わなくては。
 
有紗が本題に入ったことは龍之介にも伝わったようだ。

彼はこちらに身体を向けて、有紗の言葉に耳を傾ける。
 
その視線に、有紗の胸が震えた。
 
世界中の女性を虜にする彼の切れ長の目が、今は自分だけを映している。
 
この瞬間をずっとずっと覚えていようと有紗は思う。
 
自分の人生の中で、一番幸せな瞬間だ。

「私、副社長を尊敬しています。この一年、副社長のおそばにいさせていただけたこと一生忘れません」
 
龍之介が静かな眼差しで有紗の言葉を聞いている。

「会社のために身を粉にして働く副社長は本当に立派な方だと思います。微力ですが、副社長の仕事のサポートができて私、本当に幸せでした。副社長は、ご自身のことだけではなく、部下や社員のことも、大切に考えてくださって……その……」
 
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