ブラッドドールとヴァンパイア
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「失礼します、あるじ様」

 白百合が少女を連れて圭の部屋へ入る。

(これは……)

 圭はほう、と息をする。
 少女は赤を基調としたドレスを着てやって来た。
 ふんわりとしており、一歩進めば小さく揺れた。
 あちらこちらに金糸で刺繍が施されており、黒い網タイツと映えた。
 髪は左右両方に編み込まれており、小洒落たアンティーク人形を想起させる。
 白百合のセンスがあってこその出来栄えだが、少女の生まれつきの容姿の良さがなければここまでのものにはならなかっただろう。

「白百合」
「はい」
「よくやった」
「お褒めに預かり光栄です、あるじ様」
「また後で呼ぶ」
「かしこまりました」

 白百合は圭の言いたいことを察し、静かに姿を消した。
 少女は特に驚きもせず、静かに立っていた。

(さて、どうしたものだろうか)

 ヴァンパイアである以上、吸血しなければ吸血衝動が起こり、最終的に死ぬことは確定事項だ。
 そして、ヴァンパイアのために生まれたのがブラッドドールだ。
 ブラッドドールがヴァンパイアに吸血されるのは仕方のないこと。
 それがたとえ弱い幼女だったとしてもーー

(……無理だ)

 しかしそれを理解していても受け入れられない男が圭だった。
 吸血しなければ死ぬ。
 それは圭もわかっている。
 十数分前に、圭は少女の血を飲んだ。
 紅秋が白百合からほんの少しだけ少女の血をもらってきたためだ。
 紅秋が圭の前から姿を消したのはそのためだったのだろう。
 そのおかげで少しは吸血衝動も治ったのだが、残念なことにあの少量だけでは圭の吸血衝動を完全に抑えきることはできなかった。
 そして今、少女の芳醇(ほうじゅん)な血の匂いによって、圭の吸血衝動はさらに強くなった。

「はぁ……はぁ…はぁはぁはぁ」

 息遣いがだんだんと荒くなる圭。
 胸を手で押さえ、姿勢は前へ下へと移動する。
 少女は顔色ひとつ変えず圭を見ている。

 ブラッドドールはヴァンパイアに従順な人間でなければならない。
 無口無音無表情なほど良いとされている。

「はぁはぁはぁはぁ」

 嫌な汗が圭の背中を流れる。
 苦しみが身体中を走り回る。
 息をすることさえ辛くなる。

(耐えろ……耐えるんだ…………)

 本物の吸血衝動はもっと苦しかっただろう、と圭は自分に言い聞かせる。
 だが苦しいものは苦しく、辛いものは辛い。
 服がシワシワになるぐらいに強く握りしめたその時だった。
 ぶわっと何かが圭の生存本能に触れる。
 思わず圭は顔を上げ、その何かの出所を見る。

「なにを、やって…………、っ!」

 一層激しくなる動悸を圭は宥める。
 最悪の状況下、圭は少女の首元から鮮血が出ていることを確認した。


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