クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 高尾家の車に乗ったことはある。
 父の秘書さんが運転する送迎の車だとか、雄也さんが外出するときに一緒に乗ったりだとか……でもそのときは秘書で運転手でもある毅くんが運転するし、私は後部座席で雄也さんの横に座る。

 いままで男性と付き合ったことがあれば助手席に座る機会もあっただろうけれど……と、天城さんがすっと私に手を伸ばす。

「え?」

 思わずぽかんとした、私の面前に彼の端正すぎるかんばせが近づく。怜悧な印象を抱く目元は広すぎない二重、まつ毛が思ったより長い。微かに伏せられた瞳と、至近距離で目が合った。

 心臓が、どくんとひとつ、脈打った。
 呼吸が止まるかと思った。

 しゅるり、とシートベルトの音がする。天城さんが離れて初めて、彼が私のシートベルトを着けてくれたのだと気がついた。

「……あ」
「出るぞ」

 私のほうをもう見もせずに、天城さんが車を発進させる。

「ありがとう、ございます……」
「……いや」

 ぶっきらぼうに彼は言う。その整った横顔に浮かぶのは涼しい表情だけだ。

 どきどきしたのは、私だけ。

 そう思うと妙にもの寂しい気分になって、少し不思議に思う。窓の外を夕日に照らされたビル街が過ぎ去っていった。




 公園の前に着くと、街灯の下で雄也さんがにこやかに手を振っていた。車を降り、挨拶をしようと振り向くと、天城さんも運転席のドアを開いたところだった。

「こっちの事情で、悪いな、天城。うちでコーヒーでも、と言いたいところなのに」

 雄也さんが天城さんに声をかける。こっちの事情で? 首を微かに傾げるも、雄也さんは気が付いたそぶりはなかった。

「──いや」

 車を停めて、わざわざ天城さんは歩道まで来てくれた。雄也さんの横に並び、ふかぶかと頭を下げる。

「今日はありがとうございました。……あの、ドリンクもごちそうさまでした」

 天城さんは微かに眉を上げる。それから「また明日」と淡々と言って、ちらりと雄也さんと視線を交わして車に乗り込む。走り去っていく赤いランプを眺めながら、雄也さんがぽつりとつぶやいた。

「もっと海雪と一緒にいたかっただろうなあ」
「え?」

 きょとんと雄也さんを見上げる。雄也さんは不思議そうに私を見て、それから「実は」と眉を下げる。

「あいつが海雪を家まで送らなかったのにはな、理由があるんだ」
「理由?」
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