クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 暗い住宅街を歩きながら聞き返すと、雄也さんは自嘲気味に目線を逸らす。

「僕は……ふたりの結婚はなにがなんでもうまくいってほしいと願っていて。だから、母さんや愛菜には極力関わってほしくないんだ。まぜっかえされると厄介だ」

 私はああ、と頷いた。
 ふたりとも苛烈なところがある。せっかくまとまった話が反故にされるとなると、病院としても損失が大きいのだろう。

 家に戻り挨拶にリビングに向かおうとすると、雄也さんが私の肩を引く。

「今日はいいよ海雪、疲れているだろ? 朝晩必ず挨拶しろだなんて、あれは海雪に嫌がらせする口実を探しているだけなんだから、無視していいんだ」
「でも」

 逡巡したとき、ワンピースの裾が目に入る。私のお給料だけでは到底買えない、一流のブランドの品がいい上質なものだ。
 それだけじゃない。
 小さなころから、いろんなものを与えられてきた。ピアノにお華、茶道、英会話。有名女子大まで出してもらえた。それがたとえ私を政略結婚の駒にするために、できるだけいい駒にするためにと教育されたことだとしても、冷遇されてきたとしても、どれだけ厳しくされてきたとしても、それでも育ててもらったのだ。

「挨拶くらいは大丈夫です、雄也さん」
「海雪……」

 雄也さんが肩を落とす。

「ごめんね、いつも辛い思いを。僕がもう少し強ければ……海雪は、なにも悪くないのに」
「え? そ、そんなことないです。私は大丈夫」

 そんな会話をしていると、ちょうどリビングの扉が開いた。顔を出したのは大井さんだった。私たちを見てから、さっとドアを閉めて近づいてくる。

「ぼっちゃまおかえりなさい。海雪ちゃん、どうだった? デート。それも結婚式場の打ち合わせだなんて、情熱的ねえ」

 うきうきとした様子の大井さんに曖昧に首を傾げる。天城さんが式場選びなんかを急ぐのは、早く私なんかとでも結婚していちはやく実家から解放されたいせいだろう。

「大井さん、誰か来ているんですか?」

 雄也さんの言葉に、大井さんが肩をすくめてみせた。雄也さんは露骨に眉を顰める。

 リビングに入ってみれば、テーブルの上にいくつもの反物が並んでいた。ふたりが懇意にしている外商さんが揉み手せんばかりに相好を崩して立っている。私に目もくれないのは、私に愛想をふりまいても無駄だと知っているからだ。
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