クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 いつのまにか車は停止していた。周りにも車が停車している。どうやらどこかの駐車場のようだ。あまりにも爆睡していたためか、起こさないよう気を使いながらシートベルトを外してくれていたらしい。

「ありがとうございます」
「……いや」

 少し歯切れ悪く彼は言ったあと、ちらりと私を見て続ける。

「昼食にしようと思うんだが……その前に少し散歩でもするか?」

 腕時計を見ると、すでに正午近い。ただ寝ていたせいか、あまり空腹は感じなかった。

「そうしてもいいですか?」

 天城さんが頷いて車から降りる。私も助手席のドアを開け、思わず目を細める。すがすがしい、春の海のにおいが肺になだれ込んだ。

 あたりを見回す。
 看板を見れば、どうやら富士山が見られる浜辺の近くらしかった。駐車場はホテルのものらしい。海沿いのアグジュアリーなホテルに向かって、天城さんについて歩く。

 自動ドアをくぐると、すぐにホテルマンらしき男性がにこやかに頭を下げた。初老の白髪交じりの、穏やかそうな人だった。金色の名札をちらっと確認すると、敷島と書かれていた。

「天城様、お待ちしておりました。どうぞ」
「お久しぶりです。また世話になります」
「とんでもないことでございます。それにしても、あの小さかった天城のお坊ちゃまがついにご結婚ですか」

 敷島さんが目を細め、天城さんはほんの少し目元を緩めた。仲の良さそうな雰囲気に、旧知の間柄なのだろうなと思う。

「食事の前に、少し散歩させてもらおうと思うのですが」
「かしこまりました」

 天城さんが勝手知ったる感じでロビーを突っ切り、奥まった場所にあるガラス扉を開いた。お礼を言いながら外に出ると、どうやらホテルの庭園兼海岸沿いを歩くことのできる遊歩道になっているらしかった。春の陽射しに輝く大海原の先に、シルエットのようになった富士山が微かに見られた。

「綺麗」

 思わずつぶやいた。私の横で天城さんが微かに息を呑んだのがわかる。仰ぎ見れば、天城さんはちょうど私から目を逸らしたところだった。

 松が植えられた遊歩道を並んでのんびり歩く。天城さんは相変わらず無言だったけれど、なんとなく、このしじまは嫌ではないな、と思った。穏やかに寄せては返す波音も心地よい。
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