クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 天城さんはそう答えながら、私の手をそっと握る。
 温かで、大きくて、硬い指先が私の手を包む。心臓がぎゅっとした。

 どうして手なんかつなぐんだろう。

 彼は実家から離れたがっているだけなのに。そのために彼は私との結婚を受け入れただけにすぎないのに。
 さっきの浜辺での会話を思い出す。解放されたと言っていた。

 はやく彼を助けてあげたかった。そのために必要なのは、一日でも早い私との婚姻。

 それもある。それもあるけれど……。

「天城さん。私、ここがいいです」
「……いいのか? ほかにも見てみたらいいだろう」

 愛想のない口調ではあったけれど、私のことを思ってくれているのがわかる。
 それで十分だ。

「ここがいいんです」

 私も、この教会をすっかり気に入ってしまった。天城さんが私のために選んでくれた、かわいい式のために考えてくれた、この教会が。
 にっこりと微笑んだ。天城さんは少し眩しそうな目をした。



 そうして、わずか一か月後、初夏にさしかかった爽やかな夕方に、私は約束通り、彼とこの教会で式を挙げた。

 参列者はいない。ふたりきりでの挙式だ。

 時刻はトワイライト――夕方と夜のあわいだ。空に紫紺と橙が混じり、沈みゆく太陽が金色に煌めく、そんな時刻。

 私は白いマーメイドラインのドレス、天城さんは白のタキシード。とても似合っていて、少し胸が高鳴る。本当に、こんな素敵な人と結婚するんだなあって。

「病めるときも健やかなるときも、生涯その愛を誓いますか?」

 神父様の言葉に、私たちは頷く。ステンドグラスが、チャペルの床に青を落とす。まるで海の中にいるみたいだ。海の底に沈む純白――バージンロードのキャンドルが、温かくゆらめく。

 お互い、やむにやまれぬ婚姻だ。私は実家への贖罪のために、彼は実家から解放されるために。

「それでは、誓いのキスを」

 神父様の言葉に、柊梧さんが私のヴェールをそっと上げた。真正面から視線が絡む。どきっとした。心臓を掴まれたような気分になる。
 交換したばかりの、揃いの指輪が視界に入る。

 どうか穏やかな、家族愛に満ちた家庭が築けたら、と思う。

 唇が、そっと触れてすぐに離れた。温かくて柔らかくて、とても甘いと思った。歓喜にもよく似た切なさで、ぎゅうっと胸の奥が苦しい。

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