クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 なんでも柊梧さんのお知り合いの紹介のマンションらしかった。私の言葉に、そっと彼が息を吐いたのがわかった。どきりとする。まるで私に気を使っているみたいで……。

『ちょっと渡すものがある。いいか?』

 言われるがままにソファに座ると、目の前のローテーブルに二枚のカードが並べられた。一枚はキャッシュカード、そうしてもう一枚はクレジットカードだった。

『好きに使ってくれて構わない』
『……え、っと……はい、ありがとうございます』

 とりあえず、食費などは当面折半にしようと勝手に決めてカードを受け取った。クレジットカードは、よほどのことがない限りは使わないだろうとは思うけれど。
 私が受け取ったのを確認して、少し彼は眉間を緩めた。それから一冊のパンフレットを私に渡す。

『それから、ここ。すでに料金は支払ってあるから、君の都合のいいようにスケジュールを組んでくれ』

 なんのパンフレットだろう、と表紙を見て思わず声が漏れそうになった。横須賀市内の自動車教習所のパンフレットだった。……覚えていてくれたんだ!

『そ、そんな。申し訳ないです。教習代、払います』
『ダメだ。……そう、必要経費だ』

 意味がいまいちわからず首を捻ると、彼は『転勤があるだろうから』と答えた。

『俺は来年には千葉にある防医に研修のため一度戻る。その後もう一度部隊配属になったあと、今度は自衛隊関連の病院で専門医として勤務する。その後部隊配属になるのか、勤務医となるのかはまだ分からない。ただ、配属先によっては車がないと生活が不便な場所もある』
『ああ、なるほど。了承しました』

 淡々と説明を受けた私はコクコクと頷きながら、嬉しい気持ちを抑えられない。ずっと憧れていた運転免許!

『ありがとうございます、柊梧さん』

 柊梧さんは一瞬眩しそうに目を細めたあと、『いや』と目を逸らして立ち上がる。

 私ももう少し荷解きをしようと彼に続き、運転しやすい軽自動車を買いたいなと夢想した。披露宴前には退職することになっており、それなりの退職金がもらえるはずだったからだ。

 何色がいいだろう。
 自分が欲しいものについて考える、という経験は、もしかしたら産まれて初めてかもしれなかった。
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