クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 そのあと、横浜の高尾家まで送ってもらった。最後に挨拶をするべきだとお義母さんが主張したためだ。母屋のリビングで『ここまで育てていただきありがとうございました』と深々と頭を下げる。飢えさせないでくれた。教育を受けさせてくれた。

 私は恵まれている。

『ああ、ほんとうよ。これでせいせいする。やっと厄介払いできた』

 お義母さんは晴れやかにそう言ったあと、嘲るように唇を上げる。

『それにしても、あんたの夫。挨拶にも来ないってどういうことよ』
『ないがしろにされているんじゃない? 男を誑かすしか能がないくせに、もう少しがんばりなさいよ』

 お義母さんと愛菜さんの言葉に眉を下げると、雄也さんが『ふたりがいなかったり、寝ていたりしたんだろ』と淡々と話しに割り込む。

『天城は何度も挨拶に来たよ。僕と父さんは会ったんだから』

 平然と言う雄也さんだけれど、実はわざとだ。
 わざと、お義母さんと愛菜さんが夜遊びに出たり、二日酔いで寝ている時間帯を狙って柊梧さんを呼んだのだった。一応お父さんには挨拶を……ということだった。

 それも雄也さんと話し合って決めたことみたいだったけれど、それにしても雄也さんはそれだけお義母さんたちに柊梧さんを会わせたくなかったのだろう。

 さすがに披露宴では会うことになるだろうけれど……とにかく、ここまで順調に来ている天城会グループとの提携に水を差されたくないのだろうと思う。

 ……と、すでにお義母さんは私から興味を失っていたらしい。はいはい、とおざなりな態度で手を振って、すぐにスマホに目線を落とした。

『ねーえ、愛菜ちゃん。このブランドの新作バッグ、いい感じじゃない?』
『ほんとだ。かわいい』
『買ってあげるわよ。……あらまだいたの海雪。もう行っていいわよ』

 はい、と返事をして離れに向かう。この廊下を歩くのも最後なんだなと思うと、どうも感慨深い。

『海雪……ごめんな。母さんが挨拶しろって言ったのに、あんな態度で』

 雄也さんが唇を噛む。私は慌てて笑ってみせた。

『とんでもないです。雄也さん、本当にありがとうございました』
『……お別れみたいなことを言うなよ。もうしばらくは秘書でいてくれるんだろう』
『はい。よろしくお願いします』
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