クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 この感情がなんなのか、考えるまでもない。嫉妬だ。誰がどう見ても嫉妬だ。たったこれくらいで胸に湧き上がる醜い感情に我ながら呆れる。

 せめて顔にはださないようにしなくては。

「そのときにツヨシくんから借りた本が面白くて。知ってますか? 古い本なんですけど面白くて」
「結局ツヨシくんの勘違いだったんですよ」
「ツヨシくんが言うにはですね、私って」
「ツヨシくん」
「ツヨシ」

 大通りの路肩にあるパーキングメーターにたどり着くまで、俺は一体何度この男の名前を聞いただろう。

 そのたびに嫉妬を隠すため、普段よりよほど愛想よくしてしまったのが悪かった。

 海雪は「ツヨシくん」の話題なら俺から反応があると誤学習してしまったのだ……!

「というか、今更なんですけどツヨシくんが雄也さんの秘書をしているのは……」

 俺は脳内でパッと名前と人が結びつく。大井とか言ったか。そういえば海雪の世話係の女性も大井だった。

「運転手の」

 そう言いながら考える。なるほど、世話係の大井とやらは母親か? だとすれば親しくなるのも頷ける。話を聞いている限り、住み込みのようだったから。
 わかるが心臓がひりついた。幼いころからずっと一緒にいたのか。

「あ、やっぱりご存じですよね。それはそうか……ね、面白い人でしょう」

 にこにこ微笑む海雪の瞳に、奴に対する幼なじみへの親しみ以外の感情がないか、くまなく探す。

「柊梧さん?」

 不思議そうに彼女が首を傾げ、ようやく俺は海雪から目を逸らした。

「いや……」

 答えながら気が付く。高尾によれば、海雪は友人ひとり作ることさえ義母に禁止されていた。
 ならば同年代の親しい人間なんか、大井ひとりだけなんじゃないだろうか。

 使用人の息子ということで目こぼしされていたか、あるいは大井の母親が友人がいない海雪を不憫に思い、ふたりの交流を巧妙に隠していたか。おおかたそのあたりだろうとは思う。

 俺は微かに息を吐き、気分を切り替える。仕方ない。彼女の数少ないだろう楽しかった思い出に、必ず大井は不随していたんだ。これからは「楽しかったこと」といえば、まっさきに俺との思い出が思い浮かぶようになればいいじゃないか。

 パーキングメーターは事前にクレジットカードで決済しておく形式のものだったので、解除して車を出す。

「海雪、行きたいところがあるんだがいいか?」

 俺の言葉に海雪は頷く。
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