クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 三十分ほど車を走らせやってきたのは、とあるビーチの駐車場。俺は車を停めると、興味深げにビーチを眺める海雪に口を開いた。

「海雪。ここから二十分ほど行った先に、展望台がある」

 海雪はきょとんと俺を見ている。……喜んでくれればいいのだが。

「そこまではドライビングエリアになっているし、カーブも少ないから初心者でも運転しやすい」

 小首をかしげる海雪に、さらに続けた。

「よければ、運転してみないか」

 海雪はしばらくぽかんと俺を見つめた。それから目をまん丸に見開き頬を紅潮させ、おそらく過去一番の笑顔で頷いた。あまりにも笑顔が眩しすぎて頭の芯がくらくらした。どうしてそんなにかわいい顔ができるんだ……!

「あ、でも、免許って……」
「日本のもので大丈夫。さっき車を借りるときに提示しただろう」
「身分証明かと思って……あ、そっか、それならパスポートだけですもんね」

 海雪は得心したようにうなずき、それから俺と運転席を代わる。

「ドキドキします。左ハンドル、初めて」
「そう変わらない。なにかあれば言うから」

 海雪は俺を見上げ、ゆっくりと目を細めて頷いた。その目に信頼……のようなものがあって、俺は慌てて目を逸らす。

 え、なんだ。なんでだ?
 どうしてそんなふうな目で見てくれるんだ?

 心臓が耐え切れない気がする。好きだと叫びたくなって耐える。くそ、まだだめだ。胃袋。そうだ、海雪の胃袋掴んで逃げられなくなってからにする。俺といると美味しいものを食べられると海雪の唯一の欲望に教え込むのだ。

 日本人は食に貪欲だ。これは他国の軍人と交流して身にしみた。某国の訓練に参加した際、油がきられていないべちょべちょの魚フライに大量のアボカドに塩味だけがついていたものをドンと給仕から渡されて俺はほんの少しホームシックにかかった。海自飯はうまい。旧軍からのならわし、艦でまずい飯を出すと叛乱が起きるという話があるかららしいが……日本人ならやりかねないと思う。

「では、出発します」

 きっちりとシートベルトをしめた海雪はそう真剣な様子で言ってアクセルを踏む。スムーズに車は出発した。

「上手だな」

 思った以上の技量に感心した。

「あんまり褒めないでください、調子に乗っちゃいます」
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