クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 そうか、と答えながら思う。世界には綺麗なものがたくさんあるんだ。

 ずっと高尾の家に尽くすことだけを強いられて生きてきたきみに、俺はたくさんのものを見せてやりたい。感じてもらいたい。

「俺は、君が幸せであればいいと思ってる」

 それだけは、まぎれもない本心だけは、どうしてかするりと口から出てくれた。
 海雪はびっくりした顔で俺を見上げ、それから頬を綻ばせた。

 そんな笑顔に、心臓が蕩け落ちて降り積もる感情に落っこちた気分になる。

 もう死ぬほど惚れ込んでいるのに、もう戻れないほどに恋に落ち続けている。

「私も、柊梧さんが幸せでいてほしいなと思っています」

 穏やかなトーンで言う海雪の声のどこかに、俺と同じ恋慕がないかつい探してしまう。……なさそうだったけれど、それでも構わない。最愛の人に幸福を願われるなんて、今後の人生いいことしか起きないような気分になってくる。

 そもそも、いまが人生で最高潮に幸福なのだ。

「……ありがとう」

 思ったよりも掠れた声になった。海雪は優しい穏やかな微笑みを頬に浮かべ、「食べましょうか」と小首を傾げた。





 ところで、秋のハワイは九月終わりころからゆっくりとハロウィンの色を濃くし始める。もう少し前からマーケットなどではハロウィン用菓子などを売り始めており、その規模は日本とは比べ物にならない。日本ではコスプレをして遊ぶだけのイベントだが、あくまでこちらでは子供向けの楽しい年中行事だ。
 とはいえ、大人向けのイベントもたくさん用意されている。
 たとえば、こんなふうな。

「……柊梧さん」

 海雪が細い声で俺を見上げ眉を下げる。
 ホノルル市内にある動物園に訪れたのは、ハワイ滞在三日目のことだった。
 動物園では、ハロウィンイベントとしてナイトウォークが開催されていた。人けのない暗い動物園を飼育員による動物にまつわる怪談や、少し不気味な話を聞いたあとに歩き回るのだ。ナイトウォークというよりは実質お化け屋敷のような感じだ。
 海雪は持っている懐中電灯であたりを照らしながらぽそっと続ける。

「いまなにか、そこで動きませんでしたか?」

 ジャックオランタンが置かれているティーの繁みのことらしかった。

「いや、気が付かなかった」

 そうさらりと答えつつ、かわいらしい反応を見せてくれる海雪を見下ろして内心唇を上げた。

「なにも動いてないと思う」
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