クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「ほ、ほんと……ッ??」

 ガサッと草むらでなにかが動き、海雪が無言で俺に抱きついてくる。
 あーなんだこれ、幸せだ。俺は内心ニマニマしながら海雪の薄い背中を撫でた。
 なんてすてきなイベントをやってくれているんだ、この動物園。

 抱き合う俺たちをよそに、「なにをやっているんだ」といった顔をして鴨くらいの大きさの鳥がペタペタと歩き去っていった。放し飼いにされているものか、それとも勝手に住み着いている野鳥なのかはわからない。

「あ、と、鳥……」

 海雪が恥ずかしげに俺から離れていく。ああもう少し抱きついていてくれてよかったのに。
 俺は少し呼吸を整えてから、そっと海雪の手を取った。きゅっと握ると、暗い中でも海雪が真っ赤になったのがわかる。胸が嬉しくて切なくて苦しい。なんでそんなかわいい反応をしてくれるんだ!

「そんなに怖がっていれば、転ぶだろう」

 そういまいち素直になりきれない言葉を足すと、海雪が微かに笑う。

「優しいですよね、柊梧さんって」

 そんなことはない、と思う。君にだけだ、と言えたらいいのに、いや言おうとするのに素直になれない。
 小学生か。
 自分で自分が情けない。せめて頼れる男でいようと、海雪の手を強く握って歩き出す。

 ジャックオランタンだけでなく、木に吊り下げられた白く発光する骸骨人形や、Happy Halloweenの電飾などを眺めつつ園内を歩く。決められたコースを歩き、途中でハロウィン用にデコレーションされたライオンのぬいぐるみを受け取りゴールに向かう……という、よくある肝試し方式だ。

「ほんと、さっきから申し訳ないです……自分がこんなに怖がりだなんて思ってませんでした」

 すごくかわいいから問題ないと思う。さらっと言えたらいいのに、俺が口にできたのは後半の「問題ない」だけだった。愛想もへったくれもない。
< 55 / 110 >

この作品をシェア

pagetop