クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 柊梧さんは私をダイニングテーブルに座らせ、香りのいいほうじ茶まで淹れてくれた。

「病院行って、買い物までしたんだ。疲れただろう」
「いえ、荷物は持っていただきましたし」

 恐縮する私の前髪をかき上げて、額にキスが落ちてきた。

「俺がしたいようにさせてくれないか?」
「え」
「大切な妻が、自分の子どもを妊娠しているだなんて……幸福すぎて、なにかしていないと落ち着かない。とにかくひたすら甘やかさせてくれたら、それでいいから」

 そう言って頬を寄せられ、気が付けばこくんと頷いた。柊梧さんは満足げに頬を緩める。

 ついこの間までそっけなかった彼は、どうやらずいぶん子煩悩らしいと、ドキドキしてぽうっとしてしまっている頭のどこかで考えた。




 お腹の赤ちゃんは元気にスクスク育っていって、年明けにはいわゆる安定期といわれる妊娠十六週を迎えた。まだ胎動はよくわからないけれど、診察のたびに元気に動く姿も見ることができて、とても安心していた。
 安定期にはいりましたよ、と夕食の席で伝えると、柊梧さんは微かに眉を寄せて噛んで含めるように私に言う。

「いいか。医学的には安定期なんてものはない」
「ないんですか」
「ない。だから引き続き身体には気を遣ってくれ」

 きっぱりと言う柊梧さんからは、私への過保護っぷりをやめようとするそぶりは感じられなかった。
 柊梧さんのお仕事は、このところどうやら落ち着いているみたいに思えた。週に二回の高尾病院への通修のほかは、基地内での勤務で、前のように長期間船に乗ってどこかへいく雰囲気もない。

 帰宅時間はまちまちだけれど、帰宅すれば真っ先に私の体調に気を遣い、ぎゅうっと抱きしめて幸せそうにキスをしてくれる。

 私はまだ、もう何回もされたというのにキスに慣れなくて、そんな私を見て柊梧さんはどこか微笑ましげに目を細め、なんどもキスを繰り返す。
 一緒に眠れば、優しく抱きしめられて眠り――目が覚めれば、お互いに微笑み合う。

 ようやく感じてきた胎動を、外からではまだわからないとわかっていても、お腹に手を当てて「はやく会いたい」と目元を緩める柊梧さんに、私は胸が締め付けられる。切なくて、嬉しくて、どきどきして、私も彼を幸せにしたいと心から思う。

 なんていう名前の感情なのだろう。
 どうしようもなく幸福で。
 びっくりするほど平穏で。
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