クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 いつもふたりにある、自信……のようなものが、ないように思えた。

 焦っているような、そんな雰囲気。

 いままで彼女たちから蔑まれ嘲られ無視されてきたけれど、でも直接的になにかされたことはなかった。でも、今日の雰囲気は……。明らかに攻撃的な雰囲気に、背中がひんやりとする。

 お腹のなかで赤ちゃんが動く。この子を、守らないと。

 私は掃き出し窓を閉めるのを途中でやめた。場違いなほどあったかい春の風が室内に吹き込み、レースのカーテンが揺れた。

「柊梧さん……」

 震える手で、彼のアドバイス通り雄也さんにメッセージを送る。

「なにをコソコソしているの?」

 愛菜さんはソファに座り、きょろきょろと室内を眺めながら言う。私はひとつ息を吸い、「あの」となんとか口にした。視界の隅には開け放たれたままの窓がある。

「一体、どういう……ご用事でしょうか?」
「その赤ん坊のことよ!」

 愛菜さんは私のお腹を指差しながら哄笑する。

「さすが、泥棒猫の娘ね。ふしだらで嫌になる」

 明らかに見下された口調で言われ、小さく唇を噛みつつ首を微かに横に傾げた。一体、なんの話を?
 そんな私にお義母さんが続ける。

「いい加減、言うことを聞きなさい、海雪。いまならお金も融通してあげるから柊梧さんと別れるのよ」
「いやです」

 私はお腹に触れながら、きっぱりと口にする。
 私は柊梧さんの家族なのだ。
 彼に取って、唯一の奥さんなんだ。
 そしてなにより、この子のお母さんなんだ!
 こっそりと庭の様子をうかがう。お隣の奥さまが、心配そうにしながらスマホでどこかに通話しているのがわかった。
 いざとなったら、あそこまで逃げればいい。

「絶対に別れません」
「……あーら。強気」

 そう言いながら、愛菜さんは嬉しげに口を歪めた。

「そのお腹にいる赤ん坊、柊梧さんの子どもじゃないってこと、あたしたちが知らないとでも思ってるの?」
 思ってもない発言に、身体が固まる。……柊梧さんの子どもじゃない?

「どういう……」
「あはは! 焦ってる、焦ってる!」

 私を指差し、愛菜さんが笑った。その横に座りつつ、お義母さんは「もう遅いわ!」と高らかに宣言する。

「そろそろ、柊梧さんも見ている頃よ! あなたの不義の証拠をね!」

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