クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「海雪は、あの人たちを心配する必要なんかない。怒っていい」
「そんな」

「そうだろう? 前も言ったけれど、父さんの不倫は海雪には関係のないことだ。だいいち……海雪の母親はね、不倫していたなんて知らなかったんだ。父さんは独身だと言っていた。独身主義だからと。海雪の母親は最期までそれを信じていたらしい」

「そ……」

 そうなんですか、なのか、そんな、なのか……とにかく海雪は絶句した。それからゆっくりと微笑んだ。

「じゃあ、お母さんはずっと幸せだったんですね」
「海雪」

 思わずその手を強く握る。海雪は優しく目を細めた。

「それが知れただけでも、良かったです」
「海雪」

 高尾が声を震わせる。

「そんな海雪を、ひとかけらの愛情さえ与えず高尾の家のためになれと育てて……僕はどう君に償えばいいのかわからないんだ」

「償うだなんて、そんな……私はちゃんと育ててもらったと思ってます」

 にっこりと海雪が言う。そんな海雪に高尾が告げた。

「違う。違うんだよ、僕は……君を犠牲にしたんだ……」

 高尾は訥々と、過去のことを語った。海雪が高尾夫人のヒステリーのはけ口となったことで、高尾自身は解放されたこと。

「海雪」

 俺はふと口を挟む。

「高尾はずっと後悔していた。それで、あの家から君を解放するため俺との政略結婚を提案してきたんだ」
「そうだったんですか」
「ほんとうに、ごめんね……謝ってすむとは、思っていないけれど」

 声に涙が滲む高尾に、海雪は首を振る。

「ずっと雄也さんの優しさに助けられてきました。それから……ありがとうございます。こんなに優しい旦那様と、めぐり合わせてくれて」

 そう言って俺を見上げ、幸福そうに微笑んだ。

「家族として愛し、慈しんでくださいます。とても大切に……」

 その言い方に、ふと違和感を覚えた。
 家族として?
 いやもちろん、そうだ。そのつもりだ。けれど俺は、ひとりの女性として、彼女を愛しているしそう伝えていたつもり……だったのだが。

「海雪。その」

 海雪を見下ろす。海雪は目元を綻ばせる。

「男女としての恋愛感情はなくとも、家族としてこれからも愛しあえていけたら」

 ほんとうに幸せそうに言う海雪をみたあと、高尾からの視線を感じ目線をずらす。高尾は涙がひっこんだと言わんばかりの顔で声を出さずに口を動かした。

 きみはばかなのか。

 ……俺もそう思う。

< 96 / 110 >

この作品をシェア

pagetop