《旧版》涙色の夢路(ゆめ)【壱】

第壱章 ~Destined encounter~ / 第1話 ~冥王界~

 ――時は3年前に遡る。全てが始まったのは、あたしがまだ心臓病で入院していた、高校2年生の頃だった。

 ここは、東京都にある染岡病院の病室。高校2年生のあたしは、この病院で入退院を繰り返している。
 いつかここで、循環器内科の看護師として働くことが、幼い頃からのあたしの夢だった。

 もうずっと、家には帰っていない。どうせ厄介払いのような形だったし、あんな生活に戻るなんて、こっちから願い下げしたいくらいだ。
 あたしは継母と弟、妹との4人暮らしをしている。弟や妹も、もうだいぶ大きいから大丈夫だとは思うけど……ちゃんとした生活を送れているか、少し心配だ。

 病室は個室で、入口の近くにトイレとお風呂がある。
 ベッドは部屋の隅にあり、その横に置かれているのは木製の棚。この棚には日用品の他に、2種類くらいのお菓子を常備している。たまにお見舞いに来てくれる、弟と妹の為だ。

 喉乾いたな……。

 お茶を飲みに行こうと思い、ベッドから体を起こした。
 ナースステーションに冷蔵庫があって、その中にお茶の入ったポットが置いてある。

 ベッドから足を伸ばして、スリッパを履きかけたその瞬間(とき)

「あ……ッ!!」

 足を踏み外してベッドから落ち、ベッドの傍らに置かれている棚に、思い切り頭を打つ。その拍子に、手にしていたコップを取り落としてしまった。
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