気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 それは一瞬のことだったけれど、彼女の素直な心情だろう。
「彼女は俺との再会を望んでいなかった」
 朔朗が肩をすくめる。
「まあ、颯斗は彼女の好みじゃないんだろうね」
「なんだと?」
「だってさ、好きなタイプだったら喜ぶものだろ? 感心がないからまた会いたいとは思ってなかったんだよ。颯斗だって興味がない女性にしつこくされたらうんざりするだろ?」
 痛いところを突かれて、颯斗は口ごもる。
 タイプじゃないくらいならまだましだ。
 現状嫌われてしまっている。
 咲良はあの日、颯斗が先にホテルを出たことに不満を持っていた。
 緊急の仕事で呼び出されたため、仕方が無かったとはいえ、彼女に声をかけなかったのは間違った判断だった。
 ぐっすり眠っているのを起こしたら可哀そうだと思い、連絡先を書いたメッセージを残したが、気付かれず不誠実な男の印象を残す結果になった。
 いい訳は見苦しいし、自分が判断ミスをしたのは間違いないので謝罪したが、彼女の信頼は今のところ地の底だ。
「それで、彼女とは何を話したんだ? 次のチャンスは貰えそう?」
「なんとかな。契約結婚という形で話しをして、強引に連絡先を交換した」
「そこまで話したのか?」
 驚く朔朗に、颯斗は頷く。
「言わないと次の機会はないと思ったからな」
「すごいな……さすがにそれは予想外だ。それで返事は?」
「無理だと断られた」
 朔朗は飲んだばかりのアルコールを噴き出しそうになったのか、口元を抑えて咳き込んだ。
「……颯斗が容赦なく振られるなんて新鮮だな」
「完全に拒絶された訳じゃないからチャンスはある」
 颯斗が無理やり作ったチャンスだが。
「へえ、それならいいけど。でも早くしないと面倒なことになるぞ」
 その言葉に颯斗は「分かってる」と頷いた。
 結婚を急いでいるのは、颯斗の家族の問題だ。
 颯斗の生家は、リゾートホテル運営会社【渡会リゾート】を経営している。規模は大きく業界ランキングでもトップレベルだ。
 同族経営だが、役員の半数以上は一族以外のたたき上げ社員だから、社長の息子と言えど能力と実績がないと周囲が後継者に相応しいと納得して貰えない。
 颯斗にはひとつ年上の兄がいる為、会社を継ぐ気など一切無かったが、入社一年が過ぎた頃に、颯斗を後継ぎに推す者が親族の中に現れた。
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