気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 兄よりも優秀だからという主張だったが、それがきっかけで派閥が出来てしまった。
 渡会家の後継者は兄と決まっているし、兄弟仲は良好で競う気などないのに、周囲があれこれ口を出して来る。
 結局、颯斗は渡会リゾートを辞めて家も出た。
 権力争いに巻き込まれるのを嫌っただけでなく、この機会に独立して自分の会社を立ち上げたいという野心もあったのだ。
 まずは興味があったIT関連企業に転職し、四年前に、実家の援助は一切受けず政府のスタートアップ制度を利用してワタライワークスを立ち上げた。
 実家に戻るのは盆と正月くらい。距離を置いたおかげで、派閥争いは収まったし、兄との仲も以前に増して良好だ。
 ところが三ヶ月前に新たな問題が発生した。渡会リゾート設立時からの取引銀行である五葉(ごよう)銀行の頭取令嬢が、結婚相手に颯斗を指名して来たのだ。
 元々兄の見合い相手だった為揉めに揉めた。兄は颯斗のせいじゃないと言っているが、気分がよい訳がない。
 自分にはその気はなく、頭取令嬢と結婚はあり得ないと言っても、相手は執拗で何かと颯斗に関わろうとしてくる。
 初めは拒否していればいずれ諦めると思っていたが、このままでは解決しないと気がついた。
 長引かせると兄にも申し訳ない。
 頭を悩ませていたある日、不意に自分が先に結婚すれば、全てが解決するのではと思い立った。
 出来れば渡会リゾートとは無関係で、結婚しても影響力が無さそうな相手が望ましい。
 頭取令嬢もさすがに既婚者に関わってくる程、暇ではないはずだ。
 とは言え、あいにく交際している女性はいないし、結婚相手の当てがない。
 問題解決のための結婚とはいえ、一生を共にするのだから好きになれそうな相手がいい。颯斗の希望は一緒に居て楽しく寛げる人だ。
 しかし多くは望んでいないつもりでも、いざとなると相手はなかなか見つかれないものだった。
 朔朗曰く、波長が合う相手を探すのは、美人の妻を娶るより余程大変なのだとか。実際その通りだと感じていたときに、思いがけなく咲良と出会った。
 颯斗好みの清楚な容姿で、一見おっとりした雰囲気だ。しかし突発的なトラブルにはてきぱきと冷静に対応していた。
 優しい笑みで他人の世話をする彼女から目が離せなくなった。
 普段では考えられない程、颯斗の心臓は高鳴り、彼女と関わりたくて声をかけた。
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