【書籍&コミカライズ作品】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~【第三部完結】
「失礼いたします。 ヴィルヘルム王太子殿下の婚約者、オリビア・クラレンスと申します。 国王陛下、王妃殿下におかれましては、益々のご健勝のことと存じます」
「おお、随分可愛らしい婚約者を連れているではないか、ヴィルヘルムよ」
「……………………っ」
王妃殿下は陛下の言葉に私をギロリと睨んでいるけれど、私はお構いなしにカーテシーをしてにっこりと笑顔で言葉を返す。
「お褒めにあずかり、光栄にございますわ」
私の挨拶に随分と機嫌が良くなったのか、陛下は玉座から立ち上がり、重そうな体を揺らしながらこちらへと歩いてくる。
何を言ってくるか分からないけれど、タヌキ親父になんか負けないわよ。
「うむうむ、ヴィルヘルムも婚約者選びはまともに出来たようだな。このように美しい女性を婚約者にしたとは……」
ニタニタ笑いながら手を握ってきたところで、ヴィルが間に入ろうとしてきたので、目線で彼を制した。
「美しいだなんて……お褒めのお言葉、とても嬉しく存じますわ。では、私の美の秘訣をお話しても?」
陛下は私と身長が同じくらいなので耳元で囁くと、醜悪な顔がどんどん卑猥に歪み、涎も垂らしてしまうのではと言うくらい、おとがいも開いたまま、うんうんと頷く。
何を期待しているのやら、下品極まりないわね。
私はゆっくり会話する気はさらさらなかったので、極力早口でまくし立てていく事にしたのだった。
「では……ゴホンッ。 まずはお痩せになる事をおすすめいたしますわ。このようにお腹に脂肪が付いたままですと生活習慣病のリスクが高まり、あっという間に亡くなってしまいます。糖尿病や脂肪肝などになったら大変!糖質を減らし、脂質の少ない食べ物やタンパク質の多い食事を心がけてください。飲み物はお酒ではなくお水に切り替えた方がよろしいかと存じます。また、寝る前の飲酒は控えませんと浮腫みを引き起こし、睡眠の質も落ちてしまいますので老化の敵です。早寝早起きに運動、正しい食生活をすればもっとスリムに大人のイケオジになれると思いますわ」
「……? ………………?」
「つまり、今の生活は少し見直す必要がある、という事ですわ。そうすれば陛下も今よりもっと素敵になられます」
「? あ、ああ、そうか……?……分かった」
「ふふっ」
私がにっこりとそう告げると、何を言われたのか全く理解出来なかった顔をしつつも、ひとまず国王陛下はノロノロと自身の玉座へと戻っていった。
理解出来るわけないわよね、病名なんて全く知らないでしょうし。
私の話を理解出来なかったからと言って、国王が皆の前で小娘の話を理解出来ませんでしたとは言えないもの。中身が本物のオリビアなら陛下の事を怖がったでしょうけれど、私は三十路の母だったのでむしろ怒鳴り返さなかった自分を褒めてあげたい。
玉座の方を見ていると、王妃殿下も陛下の様子に混乱しているようだった。
これ以上ここにいても時間の無駄ね。