目と目を合わせてからはじめましょう
 雨宮の仕事は忙しい、その上、危険と隣り合わせだ。時々出張になり、数日間家を空ける事がある。相変わらず要領の悪い私たちだが、二人で家事を熟す事も楽しくて、そんな生活に慣れてはきていた。だけど、やはり雨宮の仕事が心配である事は変わらない。

 今週も、雨宮は警護があり家には戻れない。寂しいなと思いながら、お客様に笑顔を向ける。


 「咲夜ちゃん、今夜食事に行かない? 急なんだけど」

 池山先輩が、いつものようにニコリと微笑んで言った。

 「私は、大丈夫ですけど、皆の予定はどうですかね?」

 「ああ。ちょっと二人で話したい事もあるんだけど……」

 池山先輩は、私から目を逸らした。


 「分かりました。あまり遅くなれないので、近くでいいですか?」

 「ああ」

 池山先輩の表情が、パッと明るくなった気がしたが、そもそも愛想のいい顔だ、気にする事もないだろう

 それより、あまり遅くなると雨宮が心配するし、しかも、池山先輩と食事なんて心穏やかじゃなくなりそうだ。
 話って何だろう? 仕事の事だと思うが、何かトラブルでもあったのだろうか?

 池山先輩と、美容室の近くにあるイタリアンの店に入った。今日は、早めに上がれたので、まだ七時前だが、なるべく早く帰りたい。
 お互いパスタと飲み物を注文する。

 「先輩、お話って何ですか? 何かトラブルでもありましたか?」

 「いやそうじゃない」

 池山先輩は、テーブルの上のグラスを持つとゴクリと水を飲んだ。


 「咲夜ちゃん、この前、店に来たガタイのいい男性は、咲夜ちゃんとはどういう関係なの? 彼氏だったりするのかな?」

 まさか、そんな事を聞かれるとは思ってもいなかったので、驚いたのと同時に、顔が熱くなってくる。

 「はい。お付き合いさせて頂いてます」

 こう言うとき、どんな言葉を使うのか正解が分からないが、付き合っている人だという事だけは伝えておきたいと思った。

 「そうなんだね……」

 池山先輩が、何か言いかけた時、注文したパスタが運ばれてきた。

 「暖かいうちに食べましょう」

 「そうだね」

 池山先輩も、頷いてフォークに手を伸ばした。
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