目と目を合わせてからはじめましょう
 食事をしながら、最近の仕事の話をする。これから流行しそうなヘアースタイルについてや、興味のある研修などもあったので、丁度いい機会ではあった。

 食事も終わり、そろそろ帰りたいと思ったのだが、池山先輩がさらりと会話を変えてきた。

 「咲夜ちゃんの彼、ガタイもいいし厳しい目をしていたけど、お仕事は何をしているの? 立ち入った事聞いてごめんね」

 「いえ。SPです。」


 「へえー そうだったんだ。凄ね。何だか別世界の人みたいだ」

 別世界? 何だかその言葉が引っかかった。

 「映画やドラマの影響ですかなね?」

 何となく、誤魔化してしまった。そんな私とは反対に、池山先輩は真っ直ぐな目を向けてきた。


 「こんな事を言うのは、自分勝手だと承知の上で言うよ。僕は、咲夜ちゃんの事が好きだ。もっと、早く伝えるべきだったと後悔しているよ。もちろん、咲夜ちゃんの幸せが一番大事なのは分かってる。ただ、もし、危険な仕事の彼に不安になったりしたら、僕がいる事を伝えたかっただけだから…… こんな事、言われても困るよね」

 「池山先輩が、そんな風に思ってくれていたなんて、全然気づかなくてごめんなさい」

 咄嗟に何と言っていいのか分からなくて、正直な気持ちを口にしてしまった。

 「ええっ! 嘘でしょ? あれだけアピールしていたのに……」

 池山先輩は、がっくりと頭を落とした。

 「アピール?!」

 そんなの分からないよ。

 「あはははっ。そっか……」

 池山先輩は、何かを納得したように笑った。

 でも、ちゃんと言わなきゃいけない。

 「もし、池山先輩の気持ちに気づいていたとしても、私は、やっぱり雨宮を選んでしまうと思います。こんな風にしか言えなくてごめんなさい」

 「いや。咲夜ちゃんらしいよ。俺も、分かっていて、告白とかごめんね」

 この時、初めて池山先輩が無理して笑っている事に気づいた。私は、池山先輩の好意に、何の疑いもせずに甘えてきたのだと思うと、胸が痛んだ。いつか、池山先輩が無理せず笑える相手と出会って欲しい。でも、それは、この胸の痛みが楽になるための言葉でしかない。
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