目と目を合わせてからはじめましょう
 急いで出かける準備をするが、胸が苦しくて思考を回らない。大きく深呼吸をする。

 間もなくして、パパが迎えに来てくれた。ママも一緒だった。高速道路を使っても、三時間はかかる。私は、ただただ、両手を合わせて祈るしか出来ない。

 パパもノーストップで高速を飛ばしてくれたけど、病院に着くまでの時間がすごく長かった。病院の救急の入口に駆け込んだ。

 「姉ちゃん」

 悠矢が待っていてくれた。多分、ママが連絡したのだろう。


 「太一さんは?」

 「処置も済んで、今、眠っている。こっちだ」

 ああ、良かった。その場に座り込みそうになった足に力を入れた。

 悠太に案内されて、病室へと向かう。本当なら、夜中の面会などできないらしいが、救急で運ばれたこともあり、対応してくれたようだ。

 そっと、病室のドアを開けると、ベッドの上に眠る雨宮の姿があった。点滴の管と頭に巻かれた包帯が痛々しくて涙が出てきてしまった。無事であった事に、体の力が抜けてしまい、雨宮の姿しか目に入らなかった。

 「遠くまでご足労願いました。太一の怪我は、幸いにも命に別状もなく、数週間で完治するとのことです」

 その声の主に顔を向けた。そこには、岸川がこちらに向かって頭を下げていた。でも、以前のような嫉妬した感情は、もう私にはなかった。雨宮が無事であった事、それだで良かった。

 「お世話になりました」

 私は、丁寧に頭を下げる。


 しばらく沈黙が続く。この状況。岸川も帰る素振りはないし、私も帰るつもりもない。

 悠矢が来て、パパとママも近くのホテルに泊まり、明日また出直すと伝えてくれた。

 雨宮のベッドの両脇に、私と岸川さんが座った。特にも話すこともなく、黙ったまま時間が流れる。寝てはいけないと、じっと雨宮の寝顔を見ていたつもりなのに……


 「咲夜……」

 大好きな声に、そっと目を開けた。

 あれ?

 そうだ、病院。
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