目と目を合わせてからはじめましょう
 〜雨宮太一〜

 咄嗟の判断にミスは無かった。一歩遅かったら、誰かが大きな怪我をしていたかもしれない。腕に僅かな痛みと同時に軽く頭を打ったのが分ったが、大したことはない。がが、誰かが、救急車を呼んだらしく、運ばれる羽目になってしまった。


 目が覚めると、見たこともない白い壁と、なぜか咲夜の寝顔があった。寝顔と言っても、椅子に座ってウトウトしているのだが。その顔にでさえ、心がホッと軽くなるのが分かる。

 「咲夜……」

 目を開けた咲夜は、一瞬この状況が把握できないようだったが、すぐにベッドの上の俺に目を向けた。

 「こんな遠くまで来てくれたのか? ありがとうな」

 そう俺が言った途端、咲夜が俺の元に駆け寄ってきた。

 「わあああん。心配したんだから〜」

 咲夜は本当に心配したんだろう。咲夜の姿から伝わってくる。勿論、悪い事をしたなとも思うが、咲夜が自分の事をこんなに心配してくれた事が嬉しくもあった。

 「ごめんな。少しは寝れたか?」

 不思議なもので、咲夜の顔を見ると、少し意地悪な事も言ってみたくなる。多分、俺自身が昨夜に構ってもらいたいからだろう。

 「ちょっと、ウトウトしただけよ」

 顔を引き攣らせながら言う姿に、可愛いと思って手を伸ばそうとしたが、岸川も付き添っていてくれた事に気づいた。

 「岸川もすまなかったな」

 岸川がいることに不思議はないし、俺も岸川が怪我をすれば付き添う事だってある。それに報告事項もあるだろ。


 主治医から、一応検査が必要だと言われ、仕方なく承諾する。

 咲夜と岸川を残して、検査へと向かった。二人の視線がなんとなく気になった。


 検査が終わり、病室に戻ると咲夜が待っていた。ゆっくり話をしたいと思っていたが、なんだか親族一同が集まってきてしまった。皆、俺の事を心配してきてくれたのだ。

 毎回、驚かされるというか、理解し難い部分もあるが、俺は不思議と嫌な気持ちはしなかった。心配してくれる人がいると言うことに、自分自身の事も大切に思えた。この人達の馬鹿げた策略がなければ、俺と咲夜は、大切な相手である事に気づかずに過ぎてしまったかもしれない。


 じいさんの言った「応援隊」に、なんだかふっと笑みが漏れた。
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