目と目を合わせてからはじめましょう
 検査の結果は異常なく、明日、退院となった。悠矢が残っていてくれたため、名残りおしそうにしている咲夜を、俺が泊まっていたホテルで休むよう連れてってもらった。


 一緒に警護にあったていたメンバーも、報告も兼ねて見舞いに来てくれた。皆、今夜帰る事になっている。


 一人ベッドの上でスマホの履歴を確認していると、病室のドアがノックされた。

 「はい」

 部屋に入ってきたのは、岸川だった。

 「ご苦労様。皆と一緒に戻ったんじゃないのか?」

 「ええ。皆、早めの食事をとってる」

 「岸川はいいのか?」

 「うん。ちょっと話がしたくて」

 「どうした?」


 「うん……」

 岸川にしては歯切れが悪い。

 「私ね、今回の怪我、太一にしては珍しいと思うの。いつもなら、怪我せずに回避で来たんじゃないの?」

 「そうか…… そう思わせたのなら、他に方法があったのかもしれないな」

 自分では、最善の策だと思ったが怪我をした事は確かだし、今後の警護に反省点を生かして行かなければならないのは重々承知だ。


 「太一は変わった。もっと鋭くて、人を寄せ付けなかった。一緒に戦う相手だけを信頼していたのに」

 「どうした? 俺は、変わらんよ。警護に関して、鋭いままだと思うが」

 「そうね……  隙のない警護だったと思う。だけど、怪我したじゃない。どうしてよ……」

 「何が言いたんだ?」

 「咲夜さん、太一を守ってくれるの? 太一は、大切な人を失いたくないから、大切な人を作らないって言ったわよね。嘘だったの?」

 確かに、以前はそんな素振りを見せていかもしれない。


 「俺も、ずっと、そう思ってた。でも、咲夜に会って、怖いという思いから逃げていた事に気づいた。本気でこの仕事をする意味が、やっと分ったと思っている」


 「何よそれ! 私は…… 太一が苦しまないうに、それでも側にいたいから、強くなりたいと思って必死だったのに……」

 下を向いた岸川の目から、雫が落ちた。

 「岸川?」


 「納得できない…… どうして彼女なの? 私は、ずっと太一の側にいたのに。私は、太一が好きなの。こんな事にななら、もっと前に言うべきだった」

 こんな風に泣き崩れる岸川を見たのは始めてだ。それに、岸川の気持ちになど全く気づいていなかった。

 こんな時、どんな言葉が正しいのか、正直わからない。でも、伝えなければいけないと思った。


 「ごめん。岸川がそんな風に俺を思っていた事に、全く気付かずにいた。だが、もし気付いてたとしても、何も変わらなかったと思う。気の利いた言葉が分からなくて、すまない」


 「ふっ。本当に気が利かなくて、あなたらしいとしか言えないわ……」

 岸川は、寂しそうに微笑んだ。

 だが、俺にはそれ以上かける言葉は見つからなかった。何を言っても、無責任な言葉にしかならない気がした。
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