目と目を合わせてからはじめましょう
 「いやよ。怖いよ。離さないで! ここ、足が付かないじゃない」

 雨宮にしがみ付いていた手に力が入る。

 「大丈夫だ。力抜いて」

 「ヒエーー」

  雨宮の首に回った腕が解かれると、手が繋がれた。すると、ふわっと水の中に体が浮いた。


 「そうだ、そのまま、足を動かせてみろ」

 仕方なく、両足を交互にゆっくり動かす。これじゃ、まるでスイミングスクールだ。でも、ちょっと気持ちいいかも。


 「なあ。あんた、子供っぽいとか言われないか?」

 私の手を引きながら雨宮が言う。

 「はあ? 失礼ね。まあ、言われる事もありますけど…… 」

 「だろうな。小学生だって、もう少しまともに一人遊び出来るぞ。今日一日、ハラハラした」


 「ハラハラ? 何かハラハラする事ありました?」

 「自覚ないのか? どういう環境で育ったんだ?」

 「見てたら分かるでしょ。私、とーても大事に育てられたのよ。ママとパパはマイペースだったけど、弟が三人もいたから、じいちゃんや叔母さんがよく面倒見てくれて、特にひいじいちゃんは、異常なくらいに可愛がってくれたの。愛情が多すぎて、いつも誰かが守ってくれていたから、自立出来ていないのよ」

 そう、愛情を沢山もらって育った。幸せな事だと分かっているけど、誰かを失うことが怖くなってしまった。もう、必要以上に人から愛情を受けることも、誰かに愛情を注ぐこともしたくないと思ってしまう。


 「自立ししていなことは自覚しているんだな。でも、仕事している姿に、責任感あるなと思ったけど」

 私の手を引く雨宮の声は、少し優しかった。

 ふと雨宮を見ると、プールに飛び込んだせいで濡れた髪に、ライトアップされた青い光があたっていた。

男の色気というものを、始めて感じてしまった。
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