目と目を合わせてからはじめましょう
 「全く! 早く忘れて下さい」

 自分でも顔が熱くなるのがわかる。思い出すだけで、恥ずかしいやら悔しいやら。

 「そうだな。だけど、色々と気をつけた方がいい。世の中、悪い奴だって多いんだから。あんたは、油断し過ぎだ」

 彼が向けた目線の先には、あのビーチハウスの男が、水着姿の女の子の行く手を遮って話かけていた。

 「そうですね。気をつけます」

 「防犯ブザーちゃんと持っているか?」

 雨宮がチラリと私を見た。心配性だなと思うが、これも仕事柄なのだろうか?

 「バッグの中にちゃんと入ってます。使う事はないと思いますけど……」

 「使わないに越したことはないさ。風も出てきた。そろそろ部屋に戻ろう。送ってく」

 雨宮の言葉に、私は黙って頷いた。


 「おやすみなさい」

 「おやすみ」

 ただ、それだけを言って部屋に入った。それだけなのに、なぜかほっと安心する自分がいた。
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