目と目を合わせてからはじめましょう
 「えっ? あっ。はい」

 理由はどうだっていい。俺は、着ていたシャツを放り投げると、海へと向かって走り出した。
 彼女に向かって猛スピードで泳いだ。彼女に近づいた男の視線を遮るように、顔をあげた。

 「どうしたんですか?」

 そりゃ、不思議に思うだろう。


 「お爺様が、本当に泳げるのか? 見せてみろと言うものですから」

 この答えが納得できるものだとは思わないが、他に言葉が見つからなかった。

 「はあ? そんな依頼者の指示も聞くんですか?」

 俺だって、こんな支持は始めてだ。

 「ええ。信頼が大事な仕事ですので」

 「大変なお仕事ですね」

 大変と言われると、あんたのせいだと言いたくなる。


 こんな事を数回繰り返した。

 「雨宮君、なんだか忙しいそうだね」

 ビーチに戻ると、彼女の叔母さんの旦那さんである、このホテルの支配人康介さんが俺に声をかけてきた。

 「ええ。まあ」

 見ての通り、無駄に忙しい。

 「正直、気になるだろ?彼女」

 「えっ? 別にそう言うわけじゃ……」

 「ええー? 気にならないのか? あんなに可愛くて、スタイルもいいし。それに、仕事も一生懸命でさ。あんな子滅多にいないぞ。気にならないって、あんた大丈夫か?」

 どう答えたらいいんだ?

 答えられず、黙ってしまった。

 気になる? 本当は気になって仕方ない。でも、どうしてなのかはよくわからない。

 海から上がってきた彼女は、ビーチハウスへ向かった。何か、マリンスポーツでもするのか? また、厄介な事にならなきゃいいが。

 「康介君、なかなかいいホテルじゃないか」

 じいさんと、彼女の叔母さんが近づいてきた。

 「湯ノ原さん、気に入っていただけて何よりです」


 「マリンスポーツも出来るんだね? 私も何か乗りたいな?」

 彼女の叔母さんが、ビーチハウスに目を向けていった。

 「よせよせ。また、ぎっくり腰になって、ピアノ弾けなくなるぞ」

 「失礼ね。あら、咲夜ちゃん、ジェットバイクに乗るのかしら?」


 ジェットバイク? なんとなく嫌な予感がした。
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